目標が明確になったならば、今の自分たちの状況を客観的に理解するための現状把握が次の課題です。
現状把握は自分たちのことなのに、実はかなり難しい取組みです。自分たちのことだから余計に難しい、と言った方が正確かもしれません。
自分たちの企業やチームの活動状態を客観的に把握する取組みは、「現状を可視化しよう」という合言葉のもとでいろいろと挑戦されている方も多いかと思います。
自分たちの活動状態が可視化出来れば対策も改善案も出しやすくなるので、可視化する取組みはとても大切だと思います。ただ、やみくもに数値化できるものを見つけ出して可視化しても現状把握にはつながりません。
現状把握には3つのポイントがあります。
1.事実と数字で把握する
2.トヨタの三現主義
3.目標を少なくとも4つの種類(第5回で説明)で設定し、目標にそって現状把握に取組む
数字での把握の重要性は皆さんもご理解のとおりです。
但し、数値化になじまない項目も多々あります。例えば重要顧客の今回のプロジェクトに関する満足度を量るのに、当社の売上と利益だけを指標として正しいでしょうか。
答えはノーです。今回の売上と利益も大切ですが、より大切なことは顧客の満足度が持続的に高まることです。こうした満足度は簡単には数値化できません。
ですから、数値化の追求とともに、事実を丹念に集めることが重要です。顧客のキーマンや担当者のコメント、エンドユーザーの満足度など、次回の受注につながる重要な事実を意識して収集することが大切です。
また事実を集める際に注意したいのが、現状把握には悪意なく「伝聞」や「憶測」が紛れ込むということです。
「〇〇さんが言っていた」「事態は△△に動いているらしい」など裏付けのない情報があたかも事実のように入り込んできます。現状把握のときは、確認の取れていない「伝聞」や「憶測」を除外することが鉄則です。
こうした確認のとれていない「伝聞」や「憶測」を排除して、事実のみを把握するためにたいへん有効なのが、トヨタの三現主義と言われる基本姿勢です。
トヨタの三現主義とは、「現地・現物・現実」という現状把握における基本姿勢を示した言葉です。
自分たちの現状を客観的に把握するために、先入観や希望や憶測ではなく、現実に正面から向き合うことを求める言葉です。通常は「現地・現物」と短く言われることもあります。
問題が発生したならば、また問題を発見するためには、その現地に赴き、現物にあたり、現実を直視し観察することが正確な現状把握のためには不可欠です。
現場に詳しい腕利きの人間が現地に行くと、ほんの小さな情報から問題の原因や解決の道筋を見つけだすのは、なにもシャーロックホームズや刑事コロンボなどの探偵小説に限りません。いくらでもビジネスの現場であることです。オフィスや工場でじっと三時間観察を続けるだけで、職場の問題と真因仮説を発見してしまうプロフェッショナルもいるくらいです。
もちろん会議室での対策検討も重要ですが、会議室に入ってくる情報は、現地から上がってきたほんの一部の切り取られた報告にすぎないことは皆さんがご承知のとおりです。
トラブルが発生した時などは、幹部が現地に移動して皆で現状把握を行い、情報や気づきを一気に共有することが最も適切な現状把握の方法ですが、なかなか実際上難しいことも多いので、次善の策として私がおススメするのは「ナンバー2を現地に急行させる」という取組みです。
トラブルが発生したならば、リーダーの初動における重要な打ち手の一つがこの「ナンバー2を現地に急行させる」です。
緊急事態発生直後、リーダーは一番指揮が取りやすい情報環境の整った場所にいて全方位に連絡連携や指揮を取る必要があります。
このリーダーの代わりにナンバー2を現地に派遣するのです。
これは、①リーダー代わりに熟練した技能をもつナンバー2に現地・現物で現状把握を行ってもらう(目の役割)
②混乱している現場を指揮統制できる権限者を現地に行かせる(現場指揮の役割)
③現場にいる関係者への組織を代表した折衝や連携(場合によっては謝罪)として相応しい役職者(暫定的な組織の代表の役割)
トラブル発生時の現場は混乱しており、現状把握が有効に出来ず、その結果対応が後手に回り、さらにトラブルを拡大させてしまうことが往々にあります。私にも大変痛い経験があります。
トラブルの拡大を防ぐための適切な現状把握を行う取組みが、この「ナンバー2を現地に急行させる」です。
トラブル発生の一報が入ったら、内容の如何を問わず、ナンバー2を現地に派遣する準備に入ることをおススメします。
次回は、現状把握の3つのポイントの続き、「3.目標を少なくとも4つの種類で設定し、目標にそって現状把握に取組む」を解説いたします。