今回のコラムは『実践版トヨタ式ビジネス改革の流儀』を紹介、解説する本編とは別に、その理解の一助となる幾つかの重要な言葉に関するコラムのサブシリーズです。
本編の続きを急がれる方は、どうぞ第3回のコラムへお進みください。
皆さんが初めて組織のリーダーになった時、何をどうしたら良いか、戸惑うことはありませんでしたか。
私は初めて一つのチームのマネージャー的ポジションに着いた時に、たいへん困惑したことを憶えています。
管理職の教科書的な役割を分かってはいても具体的にどうしたらよいかまったく思いつきませんでした。
同僚の多くも同じ悩みを抱えていて、結局は身近な先輩管理職の真似をすることが多かったことを記憶しています。
広辞苑ではリーダーは「指導者、先導者」と定義されています。
他の辞典もほぼ同様。初マネージャー就任時の私の定義や理解もこの域を超えていませんでした。
リーダーを指導者と言い換えても、では指導者は具体的に何をしたらいいのかが不明なままです。
悩んだ私は、経営者として優秀な先達の方々の本を読みました。
彼らの著作は実践的であり、創業者や責任者として深く悩んだ中から得られた言葉ゆえに、
大変経営やマネジメントに従事する上で参考になりました。
ただ、私の中には一部不満も残りました。
それは、「リーダーとは温情をもって社員・事業・顧客を守るもの」という言葉と共に、
「リーダーとは冷静な先読みに基づいて非情な判断を行うもの」というほぼ正反対の意味をもつ言葉が
頻繁に登場することです。
もちろん、これは状況が異なるので、正確には正反対ではないですし、
「温情と非情」とをケースバイケースで使い分けるべき、と先達が言っているとも思えません。
こうした「リーダーとは〇〇する者」という定義も悪くはないですが、
こうした定義はいくらでも出てくるし、「よいビジネスパーソン」や「よい社会人」などとの区別が
私には正直曖昧なままでした。
人間というものは、重要な言葉の理解(自分なりの定義)が、自分の行動や判断を左右する、と
考えていた私にとっては、リーダーの定義をこのままにしておくことは出来ませんでした。
リーダーという言葉をどう理解するかで、自分のその後のリーダーシップのあり方が
大きく変わると思っていたからです。
こうした私の長年の悩みを解決する上で大きなヒントをくれたのが、まずドラッカーです。
業務や実践を深く研究したドラッカーはリーダーについて多数言及していますが、
「リーダーとは目標を定め、目標に対しての優先順位を決め、基準を定め、それを維持していく者である」
「リーダーシップを地位や特権ではなく責任と見ること、・・・その失敗を人のせいにしない」(ドラッカー『プロフェッショナルの条件』ダイヤモンド社)とあるべき姿とその役割を語っています。
これらの言葉はリーダーの定義を考えるうえで、大変参考になりました。
「目標を定め、その優先順位と基準を決め、達成への体制を維持する」
具体的な行動が示唆されている、大変実践的で本質的な定義だと思います。
その後、竹馬理一郎氏との出会いと協業の中で、実践版トヨタ式ビジネス改革の流儀を身につけ、
竹馬氏とこの流儀を一緒にまとめ上げる中で、私自身はようやく自分に腑に落ちるリーダーの定義を
見つけることが出来ました。
それは、次に記したように、流儀に基づく仕事の進め方の全体像を理解して、組織と部下を牽引する役割を行う人のことです。
私なりにリーダーの概念的定義を行うと
「ある目的のもとに目標を設定し、その実現のために、
集団や個々人の力と意欲を引き出しかつ能力を高めながら、
計画作成と先考型PDCAを繰り返して実践し、目標達成に導き、
その手法を組織や構成員に定着させる人」となります。
たいへん長い定義で恐縮ですが、ここにはほぼリーダーが取組むべき全体像が網羅されています。
(概念的定義とわざわざ「概念的」とつけていることについての説明は
本コラム重要用語集「概念的定義」の項目を参照ください)
私見では、実践で鍛えらえたビジネス用語は、
本質的であること、あるべき姿を含んでいること、実践を示唆してくれること、首尾一貫していること
こうした特長をその定義に備えていると思っています。
これらの要素を備えた定義を私は概念的定義と呼んでいます。
(余談ですが、ドラッカーは前述の著書の中で「リーダーシップは賢さに支えられるものではない。一貫性に支えられるものである」とも語っています。その洞察の深さに感じ入ります)
リーダーは必ずしも組織のトップである必要はありません。
一担当者でも上司や仲間の協力と共感を得られれば、集団を動かして目標達成に貢献できます。
大切なことは、このリーダーの概念的定義を構成している各取組みを実行する意志と考え方と手法を
身につけようと努力することだと思います。