今回お伝えするのは、私がまだ「私たちの流儀」を確立する以前の試行錯誤していた頃の事例です。
20年以上前の事例になりますが、当時も社員の残業問題は大きな問題であり、私たちはコンビニチェーン本部の直営店舗社員の残業時間削減に取り組んでいました。当時100店舗ほどあった私たちの本部直営店舗には、将来フランチャイズ店舗を指導するスーパーバイザーを育成するために、店長とともに複数の店舗社員が在籍して働いていました。彼らの長時間残業が社内的に大きな問題となっていたのです。
チェーン本部の経営企画の責任者でCIOを兼務していた私は、社長から速やかな解決を指示されて、この問題の責任者として対策を講じることになりました。
最初、私はアルバイト代に関する店舗予算の締め付けが原因だろうと仮説を立てて、社内に働きかけて社長の厳命であることを背景に関係者の了解を得て、店舗におけるアルバイト代予算の増額を行い、店舗にアルバイト採用予算枠の拡大を案内しました。
(「なぜ店舗社員の残業が多いのか?それはアルバイトが不足しているから」「なぜ不足しているのか?それは店舗の予算枠が少ないから」と考えていました)
この対策で問題は解決するだろうと当時の私は安直に考えていました。
しかし、現場の状況はそんなに簡単なものではありませんでした。各店舗ともアルバイトの増員を行うことができましたが、通常店長が受け持つアルバイトへの入店教育がアルバイトの急な増加により後手に回り、一般社員ではアルバイト教育が十分にできず、結果多数の接客クレームなどが発生して、店長以下の社員は逆に労働時間が増える状態になったのです。
改めて、店舗における新規アルバイトの教育が店長しかできない状態であることが分かって、店舗社員の教育水準を上げない限り、単にアルバイトを増やしても問題解決にならないことを実感しました。
直営店舗は100店舗以上ありましたので、直営社員を集合させて店舗業務の研修することは効率が悪く、それぞれの直営店舗の店長あてに教育用のツールを送り、各店舗にて店長から店舗社員に教育してもらう指示を出しました。
(「なぜアルバイトが増えても社員の残業は減らないのか?それはアルバイトを教育できていないから」「なぜ教育できていないのか?教育できる人が店長だけだから」と問題を掘り下げたつもりでした)
ところが数カ月経過しても店舗社員の教育研修は進まず、残業問題も何も改善されないまま時間が経過しました。
この事態を、私たち本部のメンバーは、(現場の店長業務の大変さは理解していたものの)各店舗の店長が自分の店長業務を優先させて、社員への教育を後順位にしているために、研修が進まないのではないか、と考えました。
(「なぜ社員の教育水準が上がらないのか?それは店長が社員研修を実行していないから」「なぜ店長は社員研修を行わないのか?それは店長が業務の優先順位を誤認しているから」と推測していました)
そこで、再度店長あてに社員教育は店長業務の一番大事な業務なので、他の業務に優先して取り組むように、と改めて指示を出しました。
しかしながら、事態は一向に改善しません。この時点で店舗社員の残業問題に取り組んで既に半年近く経っており、「速やかな問題解決」という当初の目標からは大きく遅れた状態になっていました。
事態がここまで未解決のまま遅延した状態になって、私はようやく個々の直営店長と直接対話して状況を確認したうえで協力を依頼しようと、「現地現物」(この頃は現地現物という言葉も知りませんでした)を行うことを決意しました。
それまでも若干名の直営店長とはコミュニケーションをとっておりましたが、改めて直営店舗の店長たちに個別に話を聴きに現場に行くと「吉本さん、この数年間で少しずつですがサービス拡大に伴って店舗業務が増加してきているので、熟練した店長でないととても店長業務は時間内に終わりませんよ。責任者である自分(店長)業務が終わらないときには、とても社員の教育研修までは手が回らないと考えた方がいいと思いますよ」と本音をそれぞれ語ってくれました。
私はCIOを務めていながら、現場の店長の業務量をきちんと把握していなかったことに気づかされ、いかに現場の状況に責任をもっていないままに情報システムを構築していたのか、という情けない自分の状況を痛感しました。
このときの直営店舗社員の残業問題の真因は、店舗の人員不足でも社員教育の不足でも店長が教育を疎かにしていたことでもありませんでした。これらは問題ではありますが、これらの問題を持続させていた「真因」は、店長業務の過大業務量を放置していた当時の店舗運営システムにあり、さらに言うと、そのシステムを良かれと考えていたCIOの私の姿勢こそが、真因であったことに私は気づきました。
これは衝撃的でした。多くの店舗社員たちが長時間労働で苦労している状況が続いていたのは、本部責任者でありながら対策を講じていなかった私の姿勢にあったことを実感したからです。直営の店長たちに「優先順位を上げて社員教育行うように」と指示を出していた私の姿勢こそが真因だったことは、私のビジネス人生における責任者としてのあり方の大きな転換点になりました。(余談ですが、この時の出来事が私が自責の姿勢の重要性を学ぶ出発点になっています。)
CIOとしての対応不足が真因であることに気づいたことにより、店長業務の一部本社への移管、店長支援システムの早期改善など効果的な対策が実施され、店長の業務負荷が徐々に軽くなるとともに、社員教育が少しずつ各店舗で軌道にのり、この問題に取り組み始めてから1年半後に、このときの直営店舗社員の残業問題は解決をみたのでした。
ビジネスでの挑戦やトライ&エラーはとても大切なことだと思います。また対策仮説を積極的に立案することもビジネスの大事な能力だと私は考えています。ただ、私の失敗事例でお伝えしてきたように、現地現物で客観的に現状を知り、成功事例・失敗事例を丹念に把握することなしに、過去の経験や思い込みで仮説を立ててしまうことは、無駄な取り組みを重ねてしまう危険性をはらんでいます。
また、見つけやすい表面的な問題に安易に手を打つと、問題の解決にはつながらず、現場の苦労をいたずらに長引かせてしまうことにもつながります。
いかなるときでも、「現地現物」にて可能な限り現状把握(かける時間の長短は別にして)を行い、その上で、「なぜを五回繰り返す」ことが現在の問題点が繰り返し発生するその根本を明らかにして、最も効果的な対策を立案することに繋がります。ぜひ様々な仮説を立案するときに、このことを意識していただきたいと思います。
真因が究明できたら、その真因への対策を立案して、問題の根元に対策を打つことが問題解決の要点です。次回は、真因への対策立案に関するコツをお伝えしていきます。