Bonheur Management Consulting

ボヌール マネジメント
コンサルティング

COLUMN
2024.08.23

真因対策の立案 (第12回)

「真因対策立案」の前に行うこと

真因を究明して、いよいよ多々ある問題点の根本に対策を打つ段階にきました。すぐに対策を立案して、真因対策を実行に移したくなってきます。ここで少しだけ待ってください。真因対策を立案して実行に移す前に、あまり語られてはいませんが、大切なコツがあります。

対策の3つの段階

トラブルや問題点を根本的に解決するためには、3つの段階があります。まずは燃えている火を消す応急処置(対策)の段階、次に早期に機能を回復させるための暫定処置(対策)の段階、そして根本措置となる真因対策の段階です。

問題やトラブルを根絶して再発防止するには、真因対策が不可欠ですが、真因対策には通常時間や手間がかかります。教育の実施や現場オペレーション能力の改善・向上、さらには新施策の実施や制度改革など、今日の明日には実現できない対策がほとんどです。この真因対策を準備しながら、問題やトラブルのある現場をこれ以上悪化させない取り組みの同時進行が必要です。

段階別対策のポイント

応急処置(対策)のポイントは、リソースの集中投入すなわち保有しているリソースを一気に投入することです。火事の初期段階に多数の消防車で一斉に放水して消火するイメージです。少しずつだらだら手を打つ方法では被害が拡大する危険があります。まず持てる限りのリソースや人員を投入して、早期鎮静化を図ることが肝要です。

 

トラブルが鎮静化したあとは、速やかにかつ期間限定で暫定処置(対策)を実行して、機能の回復を実現することが大切です。なぜならば、トラブルが鎮静化したとはいえ、トラブルが発生した現場はなんらかの問題を抱えていて、そのまま放置するとすぐに再発してしまう危険性が高いからです。対外トラブルの場合などは再発するとトラブルと信用悪化が致命的に拡大して、真因究明や対策立案などを行う時間も余裕も失ってしまいます。

 

この暫定措置(対策)のポイントは、その分野のエキスパートに一時的にトラブル関連業務を一手に担ってもらい、ミスのない機能回復・現場回復を実現させることにあります。信号が故障したときにお巡りさんが手信号で交通整理をしている状態をイメージしてください。この暫定対策にて真因対策を立案し準備する時間とゆとりを確保することが真因対策立案の前提条件となります。

 

余談ですが、エキスパートが暫定対策のために一時的に自分の担当から外れても大丈夫な体制を、リーダーは平常時のうちに構築しておくことがリスク対策として必要です。

 

こうした暫定対策の重要性は実践経験の豊富な方は自然と理解されていて実行していますが、世の中の問題解決の手法の中では語られることがあまりないので、ぜひご記憶いただきたいと思います。

 

 

複数の真因(仮説)

真因は正確には真因仮説、というべきものです。多くの問題の根本原因に関する最も有力な仮説を真因と表現しているだけで、あくまでも仮説でしかありません。

 

前回お伝えした店舗の残業問題においては、当初は「人手不足」その原因としての「店舗人件費予算の不足」を真因仮説と私は考えていました。それが問題解決につながらなかったことから、さらに深堀して「店舗社員の教育不足」その原因としての「店長の社員教育未実施」と私なりに真因仮説を「店長が教育の優先順位を誤認」と推測していました。それでも問題が解決しなかったことから、遅まきながら現地現物を徹底することで「店長業務の過大さ」その原因としての「店舗システムの現場負荷改善の不足」さらには「CIOの現場負荷把握の弱さ」という真因仮説にまでたどり着きました。

 

私たちの流儀を学んだ方なら、こんなに迂遠な対応にはならず、初期段階において現地現物をしっかり行い、早期に「店長の対応に問題がある」仮説や「店舗システムに問題がある」仮説、「社員教育手法に問題がある」仮説などの複数の仮説を導き出すことができたと思います。

 

問題を解決するときに、その問題は方針が悪くて発生したのか(戦略・計画)、方針は良かったが現場の実行に問題があったのか(実行・実行管理)、方針も現場の実行も良かったが、後工程や他部門との連携が悪かったからなのか(組織風土)など、いろいろな「なぜなぜ」の視点、真因究明の視点があります。

 

これも余談ですが、この戦略・計画、実行・実行管理、組織風土は経営の三要素とも呼ばれていて、企業活動や組織活動を考える重要な視点であり、真因を究明していく上でも有用です。

 

効果的な問題解決のためには、このように現地現物での観察と集団の知恵を集めて、多くの仮説の中から最も重要と思われる真因仮説を複数(通常は2ー3個)選び取ることが大切です。

複数の対策案を立案する

私は20年ほど複数の企業で経営幹部を務めていましたが、問題への対策案として、「この案しかありません」と言って1案だけの対策案を部下から提案されたことが数多く(多分数百回)ありました。私は「問題には少なくとも複数の真因仮説が考えられるのだから、対策が1案ということは真因仮説の究明が不足している可能性があるのではないか」と再度の検討を行うように毎回指示していました。

 

私の経験から述べるならば、複数案の検討ぬきの「この案しかありません」に良い案はありません。ほとんどの提案が視野が狭く、真因究明の努力がされていても一面的なものが多く、経営視点で検討するととても不安で判断に躊躇する案ばかりでした。

 

複数の対策案を考えることは、物事をより俯瞰して捉えることや異なる視点から捉えることにつながる大切な取り組みです。複数案を考えるために、「排除」「正反」「結合と分散」「集約と分解」などのさまざまな手法や視点が世の中にはありますので、参考にされることをお勧めします。

対策案比較検討の3つのコツ

複数作成した対策案を比較検討する際に大事なコツが三つあります。一つは、長所(Pros)と短所(Cons)の比較にとどまらず、短所への打ち手までを含めて比較検討することです。大きな欠点がある対策でも実に効果的な打ち手によりリスクが大きく低減することが多々あります。例えば、社内には存在しないがそのテーマの専門家を外部起用できると大きなリスクが軽減される場合などです。短所は、短所そのままではなく、短所対策により減じられる結果としての差引後短所にて比較検討することを意識してみてください。

 

 

二つめのコツは、最善でも最高でもなく、自分たちに最適な選択肢を選ぶ、ということです。自分たちの現状(能力のみならず文化や組織風土、企業方針なども含めて)に最適な選択肢が、一番行動に移しやすく効果が上がりやすいからです。最高や最善の対策案も良いですが、本当に自分たちに向いているのか(自分たちがやりたいか)をよく考えてほしいと思います。

 

最後のコツは、対策立案は意思決定権者の視点に立ってまとめる、ということです。意思決定権者(通常は経営陣など)は、対策立案を検討する際に、効果と費用は当然ですが、その対策に必要なリソース(人員や組織、投資金額、技術など)、そしてリスクとそれへの対策、さらに誰が中心になってやりぬいてくれるのかなどまで含めて、比較検討しています。これらの情報がないと怖くて経営判断を行いにくいのです。意思決定権者が必要としている情報までを含めて複数案の真因対策を立案することが、組織の意思決定を可能にする真に有効な対策立案活動と言えます。

 

真因究明と真因対策は簡単ではありませんが、多くの問題にモグラたたき的に対応して成果に乏しく集団が疲弊することに比べて、複数の真因仮説に衆知を集めて対策立案し、最適と選択した対策に組織の全力を集中して実行していくことにより、根本から問題を解決していくとともに、集団の達成感と組織や個人の成長を同時にもたらす相乗的な効果があります。

次回

次回は、ここまで12回にわたりお伝えしてきた「私たちの流儀」の第1部にあたる「問題解決マネジメント」全体のまとめをお伝えします。

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